第72期王座戦第1局が9月4日神奈川県秦野市「元湯陣屋」にて行われ

後手の藤井王座(22)が永瀬九段(32)に20時30分、124手で勝利し、1勝0敗としました。

次戦は9月18日(水)に名古屋市中村区「名古屋マリオットアソシアホテル」で開催されます。

王座戦第1局結果

永瀬九段は、第1局の舞台である「元湯陣屋」での成績が5勝1敗1千日手と

非常に得意としているだけに、少し心配していましたが、

結果は藤井王座の圧勝となりました。

この結果から、藤井王座が3連勝で防衛する予感がします。

永瀬九段の予想を外す「3三金型角換わり」を採用

永瀬九段の先手で始まった本局は、藤井王座からのジャブで幕を開けました。

通常の角換わりでは後手が角を交換するのが一般的ですが、

藤井王座は角を3三に上がり、逆に先手の永瀬九段に角交換を促す展開に持ち込みました。

藤井王座は5ヶ月前の叡王戦第2局でもこの戦法を採用しましたが、

その時は伊藤叡王に敗れました。

しかし、その後、研究を重ねて戦法を修正し、今回の対局に臨んでいるようです。

この結果、永瀬九段も時間を費やさざるを得ない展開となりました。

藤井王座「3三角」型

本局の前のインタビューで、藤井王座はこのように答えていました。

「これまでは先手の時も後手の時も、基本的に毎回指し方を変えずにやってきた」

と藤井王座は語っています。

かおる

将棋というゲームは先手がやや有利なゲームです。

そのため、棋士は後手番の対策に時間を使うのが一般的です。

さらに、藤井王座は「最近、後手番ではなかなかそのような方法が取りづらくなってきているため、

それに代わる戦法をどうするかが、まだ確立できていない部分がある」と語っていました。

かおる

その答えが本局1局目の戦法だったと思われます。

永瀬九段がかなり時間を消費していたので、作戦は成功ですね。

勝負メシ

昨年に引き続き、両者仲良く、カレーでした。

藤井聡太王座のランチ永瀬拓矢九段のランチ
陣屋カレー(伊勢海老とビーフ)、アイスレモンティー陣屋カレー(伊勢海老とビーフ)冷たい抹茶
陣屋と言えばカレーです!
今回は、伊勢海老とビーフの両方が提供されたようです。
「かおる」も食べたい
永瀬九段は抹茶もよく注文されています。
今回も夕方の軽食にも、カレーを注文されるのでしょうか?!
「かおる」も食べたい

午後のおやつ

かおる

今回、初めて気がついたのですが、

王座戦は『午前のおやつ』が提供されないようです。何でかな?

藤井聡太王座のおやつ永瀬九段のおやつ
和菓子(練り切り)、抹茶、オレンジジュース。抹茶、グレープフルーツジュース
和の伝統とモダンなフレッシュ感を融合させ、味覚だけでなく
視覚も楽しませてくれる素晴らしい組み合わせです。
「かおる」も食べたい
飲み物だけですね。
バナナを用意していたようです。

永瀬九段の僅かなミス

本局は、両者の指し手の精度が非常に高く、

互角の展開が続いていました。

しかし、83手目で永瀬九段に僅かなミスが生じます。

その手は非常に難解で、ミスと判断するのも難しいものでした。

永瀬九段が指した「2八香」が問題だったようです。正解は「2六香」でした。

つまり、考え方自体は間違っていないのですが、

香車を打つ位置が誤っていたのです。

永瀬九段の敗着手『2八香』

そもそも香車という駒は、前方にどこまでも進める反面、後方に戻ることができません。

言い換えれば、一方通行の駒です。

そのため、香車はなるべく下段から打った方が有利です。

この局面でも、2九には飛車がいたため、2八に香車を打つという理屈は一見正しいように思えます。

しかし、ここが将棋の難しさです。

本局の場合、後に藤井王座の6四の角で香車を取られてしまうことが問題となりました。

ただし、これはかなり先の展開を見据えないと予測できないため、

2八香が悪手とは一概には言えません。

しかし、そのわずかなミスを確実にとがめるのが藤井王座のすごさです。

その一手以降、藤井王座が一気に勝負を決めてしまいました。

永瀬九段としては、気づけば形勢が不利になっていたというのが正直なところでしょう。

夕食休憩

藤井聡太王座の軽食永瀬拓矢九段の軽食
陣屋特製豚漬け重とアイスレモンティー陣屋カレー(伊勢海老)のハーフとアイスコーヒー
王座戦は持ち時間が5時間ということもあるでしょうか。
藤井王座もしっかり食べてます。
「かおる」も食べたい
昨年に続き、カレーの連投でした。
ハーフとは書いてありますが、1人前にみえます。
「かおる」も食べたい

見習いたいプロの「歩」の攻め

永瀬九段の疑問手「2八香」を見た藤井王座は、28分考えた末、「7六歩」と攻めました。

これに対し、永瀬九段は当然同歩と応じます。

7六歩の攻め

さらに、藤井王座は「7七歩」と続けて攻めます。

この歩を放置するわけにはいかない永瀬九段は、同金で取ります。

7七歩の攻め

すると、どうでしょう。

藤井王座はたった2枚の歩を使っただけで、

永瀬九段の守りの銀と金を上部に引き出し、

王様の周辺が手薄な状態にしてしまいました。

2枚の歩の攻めで金銀を吊り上げる

このように、安い駒である「歩」を巧みに使い、

相手の守りを乱して玉を攻めるのがプロの凄さです。

こういった技術は、私たちも学んでいきたいところです。

永瀬九段 最後の大勝負「5一角」打ち

121手目、永瀬九段は玉でも飛車でも取れる位置に角を打ちました。

完全にタダで取れる角です。

「タダほど怖いものはない」と言いますが、この手には深い意味があります。

もし5八の飛車で取れば、7七の金を取って粘ろうという狙いです。

また、玉で取った場合も、9五に角を打って同じように7七の金を取ってさらに粘るという構えです。

永瀬九段の勝負手「5一角」

実際に、こうした永瀬九段の粘り強い手に苦しめられ、

ほぼ勝ちの局面から千日手に持ち込まれたり、

逆転負けを喫した棋士は少なくありません。

この局面での藤井王座の対応に注目が集まります。

藤井王座が指したのは、AIが最善手とする「4一玉」。

この一手は、勝ちを見切っている藤井王座には「怖い」という感覚がないことを示しています。

一手勝っていれば十分という、自信に満ちた一手です。

藤井王座『4一玉』と逃げる

この手を見た永瀬九段は天を仰ぎ、その2手後、投了しました。

こうした勝負手が藤井王座には通用しないのです。

これこそが、多くの棋士が藤井王座に勝てない理由なのです。

藤井王座は対局前のインタビューで、「チェスクロック方式は苦手です」と自ら語っています。

今年度は叡王を伊藤叡王に奪われてしまいましたが、その棋戦もチェスクロック方式でした。

藤井王座は感覚ではなく、深い読みを信条とするため、

このチェスクロック方式は得意ではないのかもしれません。

しかし、本局ではその課題をかなり克服してきたように見えます。

そのため、今回の王座戦は3勝0敗か3勝1敗で乗り切ることができるかもしれません。

今後の展開がどうなるか、楽しみに見ていきたいですね。