10月26日に放送された第75回NHK杯将棋トーナメント2回戦第12局で、
後手の藤井聡太NHK杯選手権者(23)が羽生善治(55)を108手で破り、三回戦進出を決めました。
本局の勝利で対戦成績は藤井NHK杯の15勝3敗となりました。
次なる対局は、若手のホープ、藤本渚六段との初顔合わせです。
遠くない将来のタイトル戦での激突が確実視される二人が、この舞台でどのような戦いを見せるのか。
藤本六段が現状でどこまで藤井NHK杯に肉薄できるか、こちらも大きな見どころとなります。
本年度初戦
昨年度の藤井聡太NHK杯は、西山朋佳女流二冠、澤田七段、佐藤康光九段、増田八段、郷田真隆九段らを連破して見事優勝を飾りました。2年連続の優勝を目指しています。
迎えた本年度初戦の相手は羽生善治九段。
早指しを得意とする藤井NHK杯と羽生九段の一戦は、2回戦で実現するにはあまりにも贅沢なカードであり、
大きな注目を集める対局となりました。
両者の対戦は約1年半ぶりとなります。
先手番の羽生九段は相掛かりを選択。
角交換から互いに桂馬を跳ねる展開となり、下図のような局面を迎えました。
先後同形で進んだものの、手番が後手であるため、ここからは藤井NHK杯がペースを握り、主導権を確保する流れとなりました。

魅せる羽生九段の▲8六歩
局面は一気に緊迫します。48手目、藤井NHK杯が香車を守るべく△7三桂と跳ねたのに対し、羽生九段はAIが最善手と示す▲8六歩と歩を前進させました。
この一着に、解説の谷川九段は驚きの声を上げます。
AIの評価値だけを見ている視聴者には分かりにくいものの、実戦では極めて難易度の高い手であり、
羽生九段の深い読みと卓越した感覚が光る一手と言えるでしょう。
形勢が少し羽生九段に傾きました。

藤井NHK杯 一石三鳥の手△7六飛車
羽生九段がやや優勢に進めていた中、何とか凌ぎきって迎えた76手目、藤井NHK杯が△7六飛車と指しました。
これが局後の評価でも「素晴らしい指し手」と称賛された、会心の一着です。
この飛車打ち一本で、7八の金取り、6六の角取り、そして8六の歩取りと8五の桂馬取りの含みを持たせる 一石三鳥 の狙いがあり、
ここから形勢は完全に藤井NHK杯へと傾くことになりました。

詰み発生
そして99手目、劣勢を悟った羽生九段が飛車を取る▲6六玉と指した時点で、先手玉には15手詰めの詰みが生じていました。
詰将棋選手権6連覇の藤井NHK杯は、残された持ち時間を全て使って詰み筋を正確に確認。
▲6六香車とタダで捨てる豪快な一着から即詰みに討ち取り、見事な勝利を収めました。
「詰みがあれば必ず詰ます」という藤井NHK杯の正確な終盤力が光った一局と言えるでしょう。

