2026年2月8日、愛媛県松山市・道後温泉にある老舗旅館「ふなや」。

記録的な暖冬と言われる、ここ数年。珍しく、松山の空からは白銀の雪が舞い落ちていました。

静寂と冷気に包まれた対局場で、将棋界に激震が走りました。

第51期棋王戦コナミグループ杯五番勝負第1局。

絶対王者・藤井聡太棋王が、挑戦者の増田康宏八段に敗れたのです。

第51期棋王戦第1局

1. 牙を剥いた「変化球」:定跡を捨てた増田八段の執念

今期の増田八段は、まさに「完全無欠」の状態でこの舞台に立ちました。

敗者復活戦のある棋王戦トーナメントにおいて、一度も負けることなく本線から挑戦権を奪取。

直近5局では1勝4敗と苦戦が続いていましたが、

それはこの五番勝負に全ての研究資源を注ぎ込んでいた証左でもあったのでしょう。

序盤、増田八段は自身の代名詞である「正攻法」を封印しました。

8手目に放たれた△1四歩。

この端歩の駆け引きから、戦型は前例のない力戦へと突入します。

解説の山崎隆之九段は、この工夫に驚きを隠せませんでした。

「増田さんは変化球を投げないタイプなので意外です。

端歩と△7三銀はあまり考えたことのない組み合わせです。

最近のA級順位戦(糸谷八段-永瀬九段戦)のような大一番からインスピレーションを受けたのかもしれませんね

昨年の棋王戦で藤井棋王に3連敗を喫した増田八段。

今期は2年連続の同一カードとして、前回の「屈辱」を晴らし、「雪辱を果たす」という強い決意で臨んでいます。

午前のおやつ

藤井聡太棋王の午前のおやつ増田康弘八段の午前のおやつ
夕しぼり瓶詰めミルクチーズケーキ
ホットストレートティ
かんきつの盛合せ(伊予柑、せとかなど)
ポンジュース
新鮮なミルクのコクが凝縮された、
瓶入りのなめらかで濃厚な味わいが楽しめるスイーツです。
「かおる」も食べたい
「伊予柑」や「せとか」など、愛媛の名産を中心とした旬の柑橘が揃っています。
それぞれの果実が持つ弾けるような食感と、爽やかな酸味が特徴です。
「かおる」も食べたい

2. AIが示す「全幅の信頼」と、人間を蝕む「時間」の罠

中盤、盤上は人間離れした「AI最善手」の応酬となります。

藤井棋王が放った7筋の歩の突き捨て、そして意表を突く9筋の端攻め。

さらに控室を驚かせたのが、▲4七金という一手です。

自玉の守りをガラ空きにするリスクを承知で攻めを優先したこの手は、まさにAIが導き出した超高解像度の読みに基づいたものでした。

しかし、この「AIと藤井棋王にしか見えない景色」への没入が、残酷なジレンマを生みます。

「藤井聡太とAIにしか分からない世界があるということか」

解説者がそう漏らした通り、極限の読みは多大な時間を消費させました。

終盤、増田八段が28分もの時間を残していたのに対し、藤井棋王はわずか10分。

増田八段が研究済みの局面を「ノータイム」で指し進める中、

藤井棋王は一分一秒を削りながら未知の難問を解き続けなければならない、過酷な状況へと追い込まれました。

ランチ

藤井聡太棋王のランチ増田康弘八段のランチ
鯛にゅうめん鯛めし御膳
鯛の旨味が溶け出した上品で優しいお出汁が、対局の緊張感を和らげつつ、
午後の長考に向けて心身を整えるのにふさわしい軽やかで滋味深い一皿です。
「かおる」も食べたい
開催地である愛媛(道後温泉)ならではの「鯛」を主役にしたメニューを選び、
地元の恵みを活力に変えて盤上に臨む姿勢がうかがえます
「かおる」も食べたい

3. 勝機を不動のものとした「△1七桂成」:冷徹なる選択

本局の決定打となったのは、増田八段が放った△1七桂成でした。

タダの場所に桂馬を成り捨てるこの大胆な一手に対し、控室からは「成った!」という感嘆の声が上がりました。

この手には緻密な計算が隠されています。

▲同飛なら△2八角成、▲同桂なら△3七角成。

特に後者は、次に△5九角と王手で打つ手が極めて厳しく、藤井玉を逃げ場のない窮地へと追い込みます。

立会人の井上慶太九段はこの局面をこう評しました。

「これは厳しい。狙っていましたね。残り時間が反対でどうか、という形勢に見えます」

愛媛の名産「鯛めし」で力を蓄えた挑戦者の読みは、冷たい雪が降る外気とは対照的に、熱く、そして正確に盤上を射抜いていました。

午後のおやつ

藤井聡太棋王の午後のおやつ増田康弘八段の午後のおやつ
山田屋まんじゅう
新宮茶、ポンジュース
霧の森大福
ホットコーヒー
愛媛を代表する名菓で、透き通るような薄皮と、
口の中で溶けるような上品なこしあんが特徴の、
伝統に裏打ちされた逸品です。
「かおる」も食べたい
入手困難なほど人気のある愛媛・新宮の名物です。
香り高い抹茶を贅沢にまぶした餅の中に、
クリームとあんこが絶妙に調和した、
和洋折衷の贅沢な味わいが楽しめます。
「かおる」も食べたい

4. 数字が物語る「異質」

一敗してもなお、藤井棋王の防衛期待度は8割を超えています。

数学的には圧倒的有利という事実に、藤井聡太という棋士の異質さが際立ちます。

しかし、その内情は決して楽観できるものではありません。

• レーティングの変遷: 王将戦第3局の敗北から本局を経て、成績が下降気味。

• 肉体的・精神的負担: 王将戦、棋王戦のダブルタイトル戦に加え、叡王戦などの過密日程。

• 永世称号への条件: 永世棋王獲得には「連続5期」が必須。現在3連覇中の彼にとって、ここで一旦失冠すれば、再び5年を要するという重圧。

未だ3連敗を知らない藤井棋王。

次局以降、盤上を支配し相手を圧倒する、あの力強い指し回しを再び見せてくれるのを心待ちにしています。