1. 静寂の中の激闘
「藤井聡太はなぜこれほどまでに強いのか?」――この問いに対する最も鮮烈な回答の一つが、
第75回NHK杯準決勝、藤井聡太NHK杯と豊島将之九段の一局に刻まれていました。
両者は直近の銀河戦決勝でも盤を挟んだ宿命のライバル。
本局で選ばれた戦型は、「横歩取り」でした。
一手の緩みが即座に破局へと直結するこの空中戦において、藤井NHK杯は空中戦の決定版ともいえる「青野流」を選択。
静寂に包まれたスタジオで、AIの計算速度を凌駕する人間の思考の深淵が明かされることとなります。

2. AIが一時的に「互角」と誤認した、驚愕の「▲3三歩成」
終盤、藤井NHK杯が放った▲3三歩成という歩の成り捨て。
この一手が指された瞬間、AIの評価値はガクッと下がり、一時的に「互角」を示しました。
NHKの解説陣も一瞬、藤井NHK杯の「疑問手」かと思考を巡らせた場面です。
しかし、ここからがドラマの始まりでした。
AIに時間をかけて深層まで探索させたところ、評価値は劇的に反転。
この▲3三歩成こそが、後手玉を必至の網に追い込む唯一無二の最善手であることが判明したのです。
AIの読み筋の先にある真実を、藤井NHK杯は秒読みの中で平然と読み切っていたのです。
3. 唯一無二の防御、絶体絶命を救った「▲6七角打」
攻勢を強める豊島九段が放った△7六角に対し、藤井NHK杯は自陣に▲6七角を据える精密な受けを見せました。
代案となる▲4八玉や▲6七金では、後手の攻めが加速し、先手玉は一気に崩壊していたことが示されています。
藤井NHK杯はあえてこの局面で、攻守のバランスを保つ▲6七角打という「厚み」を維持する着点を選択しました。
この正確無比な防御を起点に、形勢の針は揺らぐことなく先手へと傾き続けます。
AIが一時的に見せた「評価値の迷い」を尻目に、
現実の盤上では、勝率が滑らかに上昇し続ける「藤井曲線」が完璧に発動していたのです。
4. 勝負を分けた「一瞬の判断ミス」—△7六飛の代償
トップ棋士同士の戦いにおける「紙一重」の恐ろしさを象徴したのが、豊島九段が指した△7六飛でした。
歩をかすめ取って攻めを繋ごうとした一手でしたが、
これが結果として藤井NHK杯の強烈な反撃、▲7二歩を呼び込む敗着級の隙となりました。
もし豊島九段が△8九飛と打ち下ろしていれば、銀をターゲットにしつつ、
△7六飛や△6六飛へのコンビネーションを含みに持たせ、互角の勝負が続いていた可能性が高いと分析されています。
わずかな計算の狂いが、藤井NHK杯という精密機械の前では致命的な「ミス」となってしまいました。
5. 歴史を塗り替え続ける23歳の王者の眼差し
本局の勝利により、藤井NHK杯は4年連続の決勝進出という、
早指し棋戦においても異常なまでの安定感と勝負強さを証明しました。
AIが計算の迷路に迷い込む中で、その先の世界を「視ていた」23歳の王者。
デジタルの限界を人間の読みが超えていくその光景は、将棋というゲームの深淵を改めてファンに知らしめるものでした。
次なる舞台は決勝戦。
藤井NHK杯の眼差しはすでに、誰も到達したことのない「その先」の数手先を見据えているに違いありません。
