豊島九段が藤井名人への挑戦権獲得

2月29日にA級順位戦の一斉対局が静岡市の浮月楼で行われ、愛知県一宮市出身の豊島将之九段が藤井聡太名人への挑戦権を獲得しました。

豊島先生の名人戦は4年ぶりで、前回は渡辺明九段に2勝4敗で敗れています。

昨年、豊島先生はタイトルに挑戦することはありませんでしたが、王座戦の挑戦者決定戦に進出し、藤井先生を最後まで追い詰めました

名人戦の七番勝負の日程は以下の通りです。

第82期名人戦日程表

今年度の豊島将之九段の成績

2023年度、豊島先生の成績は24勝20敗で勝率は5割4分5厘です。これは豊島先生の実力を鑑みれば低めの数字かもしれません。

その理由として、豊島先生が最近、戦型の見直しを行っていることが挙げられます。

従来は角換わりを主体にしていましたが、現在は様々な戦型を試している段階であり、これが勝率の低下につながっている可能性があります。

この戦術の多様性は、相手にとって予測が難しく、対策を立てにくいものとなっています。

このため、藤井先生も含めた対戦相手が、今後苦戦を強いられる可能性があります。

直近20局における豊島先生の戦型選択を以下に示します。

相掛かり6回
角換わり4回
矢倉2回
雁木1回
対抗形 ミレニアム2回
対抗形 銀冠1回
対抗形 その他2回
四間飛車1回
一手損角換わり 向かい飛車1回

名人戦における豊島先生の戦型選択

直近20局の中で、豊島先生が振り飛車戦法を採用したのは2回ありますが、その両回とも敗北を喫しています。

現在、A級では佐藤天彦九段が振り飛車に挑戦しているものの、A級の棋士であっても、振り飛車戦法を常に使い続けない限り、その感覚を維持するのは難しいかもしれません。

確かに、通常の棋士にはこの戦法で勝つことは可能ですが、藤井先生は対抗形戦法を得意としており、彼に対しては振り飛車を採用する可能性は低いと思われます。

かつて多用されていた角換わりですが、昨年の名人戦では渡辺先生は一度もこの戦法を選択しませんでした。

その理由として、藤井先生角換わりに関する研究が深く、持ち時間が長い将棋での対戦が困難であることが挙げられます。

そのため、相掛かりや矢倉の戦法を選ぶ可能性が高いと見られます。

A級昇級者

千田翔太八段

昨年10月に中村真梨花女流四段と結婚を発表した千田八段は、公私にわたって絶好調を維持しており、A級への昇級を果たしました。

忙しい私生活の中で研究時間が減少している可能性も考えられますが、中村先生との結婚が彼の将棋に対するモチベーションやパフォーマンス向上にプラスの影響を与えていると思われます。

増田康宏八段

11月時点で8勝1敗という素晴らしい成績を収め、A級への昇級があと1勝という状態で、足踏み状態が続きましたが、最終局で昇級を勝ち取りました

増田先生は、以前に比べて粘り強さが増したと自己評価しています。

上位クラスでは対戦相手が簡単には譲らないため、この粘り強さが非常に重要です。

かつて藤井先生が四段の頃、「東の増田・西の藤井」として将棋界で高く評価されていた増田先生が、A級でその実力を十分に発揮すれば、名人への挑戦も現実のものとなるでしょう。

B級1組昇級者

大石直嗣七段

主に居飛車を指す大石先生は、振り飛車も巧みに操るオールラウンダーな棋士です。

師匠は森信雄先生であり、山崎隆之八段、糸谷哲郎八段、澤田真吾七段といった同門の3人の棋士もB級1組に所属しています。

このため、同門間の対局も見どころの一つとなります。

高見泰地七段

高見先生は、C級2組在籍時に叡王のタイトルを獲得した実力派の棋士です。

彼は物腰が柔らかく、人気もあるにもかかわらず、叡王タイトル獲得後は上位争いで苦戦している印象です。

しかし、B級1組への昇級を果たしたことで、来年度はより多くのシード権が得られ、上位争いに積極的に関わっていくことが期待されます。

石井健太郎七段

今年、結婚を発表した石井先生は、順位戦で2期連続の昇級を果たし、最近特に注目を集めている棋士の一人です。

また、ABEMAトーナメントで何度も指名されていることからも、同僚たちにも愛されていることが伺えます。

B級2組昇級者

服部慎一郎六段

「ニンニン」の愛称で親しまれている服部先生は、毎年安定した成績を残しています。

C級2組で2年連続4位になり、わずかな差で昇級を逃しましたが、その後2年連続で昇級を果たしました。

今年度は藤本四段が話題を集めたため、相対的に目立たない成績に見えるかもしれませんが、現在はさらなる力を蓄える準備段階にあると考えられます。

将来、タイトル戦への挑戦が期待できる棋士の一人です。

古賀悠聖六段

2年連続での昇級を果たした古賀先生の強みは、長い持ち時間に対する優れた対応能力にあります。

フリークラス出身であり、広く知られていないかもしれませんが、同期である伊藤匠七段をライバルとみなしていると公言していることからも、強い闘志を持つ棋士であることが伺えます。

伊藤匠七段

昨年2月、C級1組で首位を走っていた伊藤先生は、最終局の予期せぬ敗戦により昇級を逃すという苦い経験をしました。

それを引きづってしまったのか、今年度は序盤に2敗してしまい、昇級の目は潰えたと思われましたが、昇級候補間の星の潰しあいに助けられ、最終的に昇級を果たしました。

最終局で昨年の失敗が頭をよぎりましたが、それを乗り越えてB級2組への昇級を決めました。

伊藤先生はレーティングで3位に位置し、A級レベルの実力を持つ棋士として、今後スムーズに昇級して藤井名人に挑戦することが期待されます。

C級1組昇級者

冨田誠也五段

冨田先生は、その場を和ませる能力が高く、将棋界のお笑いキャラとして知られる人気の棋士です。

ABEMAトーナメントにも複数回出場しています。振り飛車党の久保利明九段を尊敬しており、彼のように活躍することを目指しています。

特に、今年度のABEMAトーナメントにおいて藤井先生と対局した際には、プロになってから最も苦い経験をしました。

その経験が研究時間を増やすきっかけとなり、スキルの向上につながったようです。

高田明浩五段

藤井先生と同い年であり、岐阜県出身の高田明浩五段は、3期目にして昇級を果たしました。

以前は長い持ち時間に対応することに苦労していた高田先生ですが、今年度はじっくりと指すことに重点を置いており、そのアプローチが良い結果につながっているようです。

藤本渚五段

2月下旬に高校を卒業し、現役最年少棋士として知られる藤本渚五段は、これまで制服姿で対局していましたが、3月からはスーツを着用しています。

実質的なプロ入り1年目でありながら、藤本先生は藤井先生に匹敵する勝率を維持し、高い実力を示しています。

過去ベスト10
1位1967年中原誠十六世名人47勝8敗8割5分4厘
2位2023年藤井聡太竜王名人46勝8敗8割5分2厘
3位2011年中村大地八段40勝7敗8割5分1厘
4位2023年藤本渚五段51勝9敗8割5分0厘
5位2018年藤井聡太竜王名人44勝8敗8割4分9厘
6位2020年藤井聡太竜王名人44勝8敗8割4分6厘
7位1995年羽生善治九段46勝9敗8割3分6厘
8位2001年木村一基九段61勝12敗8割3分5厘
8位2017年藤井聡太竜王名人61勝12敗8割3分5厘
10位2022年藤井聡太竜王名人53勝11敗8割2分8厘

高校卒業により研究時間が増えることが予想されるため、来年度はタイトル挑戦も期待されます。