伊藤匠七段 初勝利

第9期叡王戦第2局が4月20日に石川県加賀市「アパリゾート佳水郷」で行われました。

先手の伊藤匠七段(21)が藤井聡太叡王(21)に18時20分、87手で勝利し、1勝1敗としました。

次戦は5月2日(木)に愛知県名古屋市「名古屋東急ホテル」で開催されます。

第9期叡王戦第2局結果

最終盤までいい対局をしていた両者

この叡王戦はチェスクロック方式を採用しているため、持ち時間が1時間を切ると、すぐに1分将棋に追い込まれます。

1分将棋では、トップ棋士であっても100%正確な手を指すことはできません。そのため、できる限り時間を残して戦うことが重要です。

下記の形勢グラフを見ていただくとわかりますが、両者の残り時間が約20分までは、拮抗した戦いが続いていました。

しかし、その後藤井先生に大きなミスが出てしまい、伊藤先生の優勢となります。最後は、伊藤先生が藤井玉を確実に詰め上げ、2024年度初勝利を挙げました。

叡王戦第2局形勢グラフ

序盤の駆け引き

2024年に入ってから、伊藤先生は先手番で「角換わり」を目指して手を進めています。本局も同様の戦術で進められましたが、早い段階で動きが見られました。

先手「角換わり」を目指す序盤5手目

このよく見る形の局面で、藤井先生の手が30秒以上止まっています。本局はチェスクロック方式のため、通常は10秒程度で指すところです。

藤井先生が考え込むということは、何か策を出す可能性が高いです。実は、先月の棋王戦でも対戦しており、その時は伊藤先生の「角換わり」を藤井先生が初めて拒否しました。本局も同様の展開になるのでしょうか。

やがて藤井先生は通常通り「3二金」と指します。しかし、その後、驚くべき手が指されました。「3三角」です!

3三角型角交換

この変化が伊藤先生専用の対策なのか、それとも今後角交換を避けるつもりなのかは不明ですが、確かなことは、藤井先生との対局には今後さらに多くの準備が必要になり、勝利がより困難になるでしょう。

伊藤先生の研究の深さに脱帽

上記の「3三角」の角交換で少し困っているかと思われましたが、伊藤先生は冷静に手を進めていきました。

この戦法が本命ではなかったにもかかわらず、十分な準備があったようです。

続いて、伊藤先生が「1五歩」と端の歩を突めた局面があります。この一手で、藤井先生の準備から外れ、時間を要する展開になりました。

藤井先生は永瀬先生と異なり、広範囲にわたって浅く研究する傾向があります。タイトル戦でも、少し研究した手を選び、対局後にはそれを深く検討するようです。

かおる

永瀬先生は、広範囲かつ、深く研究しているよね。

ふつうは、「狭く深く」または「広く浅く」2でしょう。

伊藤先生の1五歩

伊藤先生は「1五歩」までは研究通りに手を進めていましたが、その後の藤井先生の一手により、予定の研究から外れたようです。その結果、お互いに時間をかけて慎重に進める展開となりました。

10時のおやつ

藤井聡太叡王の午前のおやつ伊藤匠七段の午前のおやつ
まるでらいでんメロンなケーキ
らいでんメロンムースを含む2種類のケーキにらいでんメロンソースをサンドしています
ペコちゃんどら焼き(小倉)
叡王戦を共催する洋菓子メーカー「不二家」のマスコットキャラクターのペコちゃんも焼き印入りのどら焼き。
メロンムースに惹かれます。
不思議なネーミングのケーキです。
「かおる」も食べたい
これは絶対美味しい。
「かおる」も食べたい

勝負メシ

藤井聡太叡王のランチ伊藤匠七段のランチ
石川炙り寿司と小松うどん(冷)アパ社長カレースペシャル ~能登豚オリジナルミルフィーユカツと春野菜~
昔は藤井先生がカレーを注文するイメージでしたが、最近は和が多いですね。
「かおる」も食べたい
アパホテルのカレーがあるのを初めて知りました。
結構ボリュームがあります。
「かおる」も食べたい

午後の対局

この時点でAIによる形勢判断は互角でしたが、人間の目からは伊藤先生がやや有利に見えます

藤井先生は6一の金を守るために7二歩と受けましたが、この歩により7筋の攻めが難しくなり、伊藤先生から7七桂が跳ねやすくなりました。

かおる

「チェスクロック」でなければ、藤井先生もじっくり読みを入れたのだろうけど、時間を気にして、ぱっと指してしまったみたいだね。

この手を反省されていました。

その後、藤井先生も状況を認識し、時間をかけて何とか修正しようとします。しかし、伊藤先生の攻めは正確で、有利に進めていきます。

しかし、下図の局面での「3三金」が意外な展開をもたらし、桂馬で金を取った局面は再び互角になりました。金を取る手は人間には魅力的に見えますが、AIはこの手が甘いと評価しています。

金取りがまさかの悪手

午後のおやつ

藤井聡太叡王の午後のおやつ伊藤匠七段の午後のおやつ
ペコパフ(じわるバタープレミアム)
金沢湯涌サイダー 柚子乙女
プレミアムショートケーキ
アイスティー
ペコパフはバター風味の生地に、口どけの良いバター入りカスタードホイップを充填されています。
サイダーは地域限定だね
「かおる」も食べたい
ケーキは定番のいちご。
「かおる」も食べたい

藤井先生 毒まんじゅうを食べてしまった!

ここから数手進むと、お互いの残り時間が少なくなってきました。藤井先生は27分、伊藤先生は11分です。形勢は藤井先生が55%でほぼ互角です。

ここでAIが示す手が複雑で、藤井先生がどの手を選ぶかが注目されましたが、18分を消費し、まさかの毒まんじゅう「6六金」を食べてしまいます。

藤井先生は、相手に毒まんじゅうを取らせることは多いですが、まさかの事態に藤井ファンからは悲鳴が上がったでしょう。

その結果、形勢は急速に伊藤先生の75%へと変動しました。残り時間も考慮すると、藤井先生はかなり厳しい状況になっています。

6六金の毒まんじゅうを食べてしまう藤井先生

藤井先生 3つの課題を伊藤先生に突きつける

1.伊藤先生が優勢を維持できる手はただ一つ

下図の局面では、伊藤先生の形勢は80%と評されていますが、それを維持できる手は「8七金」のみです。

通常、「4一銀」と王手をかけて相手に取らせ、その後「6三馬」と指し、王手角取りを目指す戦略が一般的です。多くの人がこの進行を選ぶでしょうが、実はそれでは形勢が互角になってしまいます。

先手としては、「7八金」を取られるのが特に大きな痛手となります。

伊藤先生が優勢を維持できる手はただ一つ8七金だけ

2.ここでも伊藤先生が優勢を維持できる手はただ一つ

さらに数手進んだ下図の局面でも、伊藤先生が優勢を維持できる手は「4四歩」だけでした。

この局面では「3三歩打」も指してみたい手ではありますが、これを選択すると形勢は互角に戻ってしまいます。

最善手4四歩

3.銀は「成り」か「成らずか」

最後は、銀で王手する局面です。銀は成るか成らないか、その答えは「成らない」です。

玉が7一に逃げた際には、6四で銀を成り、馬で開き王手をかけると同時に、藤井先生の馬道を止めることが必要です。

5三銀成らず

かおる

『開き(あき)王手』について教えて。

かおり

王と『飛車(龍)・角(馬)・香』の間に駒が一枚あって、その駒が移動することで、利きが通った『飛車(龍)・角(馬)・香』が王手をかけることです。

かおる

玉が7一に逃げると、伊藤先生の『馬』と藤井先生の玉の間に『5三の銀』があるので、この『銀』を6四に動かすと、馬で王手となるよ。

また、同時に、2八の馬の利きを遮断できる点がポイント!

藤井先生 初めて年下棋士に頭を下げる

伊藤先生が3つの課題をクリアしたことで、藤井先生は粘ることをやめ、「7三玉」という簡単に詰まされる手を選びました。

この選択には藤井先生の強さ伊藤先生への信頼が現れていると思います。

藤井先生は、「7一玉」として粘る選択肢もありましたが、それは長引くだけで最終的には飛車を取られ、惨めな結果に終わると読み切りました。

伊藤先生に敗北を認め、わざと簡単に詰まされる手を選んだのです。もし相手が伊藤先生ほどの強敵でなければ、藤井先生は「7一玉」で粘っていたかもしれません。

これで叡王戦は1勝1敗となりましたが、次の第3局が最も重要な対局となりました。

藤井先生がタイトル戦の番勝負で未だ負けていないのは、過去に誰も藤井先生に連勝したことがないからです。もし伊藤先生が次も勝つならば、伊藤先生にとって悲願のタイトル獲得が現実に近づくでしょう。

藤井先生は昨年、先手番では、たった一度しか負けていません。伊藤先生が、次にどのような対策を講じるのかが見どころです。

藤井先生のファンとしては、次局、強さを見せつけてほしいと期待しています。5月2日が待ち遠しいです。