西山女流三冠 福間女流五冠を下し、NHK杯本戦出場を決める
第74回NHK杯将棋トーナメントの女流出場枠をかけて、福間香奈女流五冠と西山朋佳女流三冠による決定戦が3月24日に放送され、後手の西山先生が福間先生を116手で破り、NHK杯本戦出場枠を勝ち取りました。
女流棋士 2強の紹介
福間香奈女流五冠
- 出身:島根県出雲市
- 師匠:森 雞二九段
- 女流タイトル獲得:57期(白玲1期・清麗4期・女王1期・女流王座7期・女流名人13期・女流王位9期・女流王将8期・倉敷藤花14期)
- NHK杯本戦出場:4回
西山朋佳女流三冠
- 出身:大阪府狭山市
- 師匠:伊藤博文七段
- 女流タイトル獲得:15期(白玲2期・女王6期・女流王座2期・女流名人1期・女流王将4期)
- NHK杯本戦出場:2回
西山先生の強さ
現在の女流棋士界は2強時代であり、その2人は他の棋士に対してほぼ負けない実力を持っています。
タイトル獲得数では福間先生が圧倒していますが、これはキャリアの長さの違いに過ぎません。
実際、西山先生が女流棋士としてデビューしたのは2021年で、デビューからまだ3年しか経っていません。
彼女がデビュー前に奨励会員だったこと、そしてプロ棋士を目指していたことはよく知られています。
2020年の三段リーグでは14勝4敗という優れた成績を収めましたが、残念ながら上位2位以内(プロ棋士になるためには三段リーグにおいて原則2位以内の成績を収める必要があります)に入れず、プロになることはできませんでした。
藤井聡太竜王名人が三段リーグを13勝5敗で突破したことを考えると、西山先生の実力の高さが伺えます。
西山先生の強さは何と言っても終盤力にあります。本日の解説で山本博志五段が言及したように、奨励会時代の西山先生の序盤は非常に弱かったそうです。
二人は互いによく知る間柄なので、多少の誇張表現はあるかもしれませんが、要は序盤は弱いが、隙を見せたら一気に形勢を逆転させるほど終盤は非常に強いということです。
しかも、現在の西山先生は序盤も洗練されてきており、西山先生に勝つことはプロ棋士でも非常に困難だと言えます。
序盤は福間先生がリードするも、西山先生が逆転
この二人の対戦は今回が68局目となりますが、西山先生の攻めに対し、福間先生がこれを受ける展開が多く見られます。
福間先生は、相手の攻めをしっかりと受け止めてからの反撃を好むスタイルです。本局でも、西山先生が先に攻めを仕掛け、以下の図は62手目の局面を示しています。
お互いの角がにらみ合う展開ですが、この時点での形勢は、福間先生の勝率が60%となっています。しかし、次の手は相当指しにくい手でした。
この局面におけるAIの推奨手は、次の3つです。
- 1. 4三銀成らず 形勢60%
- 2. 同角 形勢50%
- 3. 4三銀成 形勢49%
「2の同角」について、山本先生は福間先生がこの手を指すのは難しいと解説しています。
残る選択肢は、「1の4三銀成らず」と「3の4三銀成」ですが、山本先生は一見してどちらが良いか判断がつかないと述べており、特に「1の4三銀成らず」は非常に指しにくい手であるとも解説しています。
本局は、福間先生は、標準的な手段として「3の4三銀成」を選びました。その8手後に、AIが「1の4三銀成らず」を推奨していた理由が明らかになりました。それは、両取りがあったからです。
藤井先生のファンであれば、終盤戦で藤井先生が時折、相手の陣地に銀などを進入させた際に「成らず」を選択する場面を目にしたことがあるでしょう。
この選択は、藤井先生が数十手先までを読み、適切に対応していることを示しています。この局面からもその洞察が伺えます。
本局に戻って、両取りにどう対応するかが勝敗の分かれ目となりました。
福間先生は時間に追われていました。両取りを想定していれば、適切な対処が可能だったかもしれませんが、どうやら誤算があったようです。
下図の、4四角打ちや5三桂成などの手を指せば、形勢を互角に保つことができたようです。
しかし、福間先生には読みを入れる時間が残っていませんでした。仕方なく、飛車を退避させる選択をします。
これが決定的な敗着に繋がったようです。プロの対局で銀を簡単に失うことは、勝利への道を絶ってしまいます。
かおる
『両取り逃げるべからす』
という格言はよく聞くよ
かおり
2つの駒取りをかけられた場合は、どちらも逃げずに
他で有効な手を指した方が良い場合も多い、という意味です
この一連の流れの後、西山先生は終盤力を見せつけ、勝利を収めました。
あと1回勝利すれば、藤井先生と対戦
西山先生の初戦の相手は解説でお馴染みの木村一基九段です。木村先生はNHK杯で藤井先生に勝利した経験を持つ強敵であるため、初戦の勝利は容易ではないと予想されます。
しかし、もし西山先生が勝ち進めば、それは藤井先生との初対局となります。
二人は過去に藤井先生が三段リーグの最終戦で対戦しており、その時は藤井先生が圧勝しています。
今回はどのような結果になるかは未知数ですが、西山先生は持ち時間の短い対局で非常に強いことで知られているため、意外な結果になる可能性もあります。