1. 絶対王者の背中に火がついた日
立ちのぼる温泉の湯気が日光の山々を包む情緒豊かな対局場ですが、
その穏やかな空気とは対照的に、盤上には凍りつくような緊張感が支配していました。
第51期棋王戦コナミグループ杯五番勝負、第4局。
挑戦者・増田康宏八段に2勝1敗と王手をかけられた藤井聡太棋王にとって、
本局は負ければ即失冠という、いわゆる「カド番」の極限状態でした。
しかし、この一戦には単なるタイトル防衛以上の重圧がかかっていました。
連続5期獲得を条件とする「永世棋王」の称号――将棋界の歴史に名を刻むための道が、ここで断たれるかどうかの瀬戸際だったのです。
追い詰められた絶対王者が、その真価を問われる運命の一日が始まりました。

午前のおやつ
| 藤井聡太棋王の午前のおやつ | 増田康弘八段の午前のおやつ |
| 鬼平の水羊羹 ICEレモンティー | ろっくバーム ジンジャーエール |
| 日光の伝統的な水羊羹文化を楽しみつつ、糖分と水分をスマートに補給。 余計な雑味のないこのセットは、「一分の隙もない精密な読み」を身上とする 藤井棋王にぴったりの、清冽な布陣です。 「かおる」も食べたい | 日光の自然美を食卓に召喚したかのような、野性味溢れるセレクト。 「柔」の水羊羹を選んだ藤井棋王に対し、 「剛」のろっくバームで対抗する増田八段の気迫が、 おやつからもビシビシと伝わってきます。 「かおる」も食べたい |
2. 定跡を飛び越えた増田八段の「▲5七角」
戦型は現代将棋の華、相掛かりへと進みました。
序盤早々、挑戦者の増田八段が用意周到な研究の成果を見せます。
公式戦の前例を早々に離れ、盤上に置かれたのは独創的な一着、▲5七角でした。
この手は自陣の深い位置に角を据え、盤面の左右両端を鋭く睨む非常にスケールの大きな構想です。
ここから一気に1筋の端攻めを狙う意図が含まれており、研究家として知られる増田八段の「攻めの意志」が凝縮されていました。
この独創的な一手に対し、検討陣の木村一基九段は次のように分析しています。
「▲5七角が増田八段のやりたかったことなんでしょうね」
定跡のレールを外れ、自らの土俵に藤井棋王を引きずり込もうとする増田八段。
序盤から火花を散らす、構想のぶつかり合いとなりました。
ランチ
| 藤井聡太棋王のランチ | 増田康弘八段のランチ |
| 日光そば 鴨なんばん | ローストビーフ丼温泉卵添え |
| 消化が良く、エネルギーに変わりやすい「蕎麦」をベースに、 鴨の「活力」を加えた一品。 余計な重さを残さず、「読みのスピードを維持しつつ、内側から熱量を高める」。 まさに中盤の難局を乗り切るための、機能美溢れる勝負飯です。 「かおる」も食べたい | 「良質なタンパク質」と「炭水化物」を最高の形で摂取する、 増田八段らしい「剛腕のセレクト」。 この一杯で得た圧倒的なスタミナが、 藤井棋王の精密な守りをこじ開ける「鋭い踏み込み」へと 繋がっていくに違いありません。 「かおる」も食べたい |
3. 勝負を決めた「跳ねる桂馬」の魔力
本局のハイライトは、終盤に放たれた桂馬の乱舞でした。
藤井棋王は△7五桂から攻めを組み立て、ついに勝負を決定づける驚愕の一着、△4五桂を放ちます。
この手が芸術的と称される理由は、それが極限の局面で成立した「詰めろ逃れの詰めろ」であったことにあります。
自玉にかかっている詰み(詰めろ)を回避しながら、同時に相手玉を即詰みの状態に追い込む。
まさに一分一秒を争う終盤戦での神業です。
さらに劇的だったのは、この桂馬が元々は増田八段が端攻めに活用しようとしていた駒を、巡り巡って逆用したものだったという点です。
挑戦者が磨き上げた攻めの牙を奪い取り、自らの勝利の決定打へと変える。
これこそが、藤井将棋の真髄たる「芸術的カウンター」でした。
午後のおやつ
| 藤井聡太棋王の午後のおやつ | 増田康弘八段の午後のおやつ |
| 酒饅頭、りんごジュース | ニルバーナチーズケーキ、レモンスカッシュ |
| 日光名物 湯沢屋の酒饅頭 文化元年(1804年)創業の老舗が守り続ける、日光の「食べる歴史」。 「かおる」も食べたい | 発売から50年以上愛され続ける、日光を代表する逸品。 「ニルバーナ」とは「最も優れた境地」を意味します。 「かおる」も食べたい |
4. 一部も狂わない、詰みへの最短ルート
最終盤、増田八段は捨て身の「最後のお願い」として執拗な王手で迫ります。
しかし、藤井棋王に焦りの色は一切ありませんでした。
残り時間が少なくなり、1分将棋の足音が聞こえる中での激闘。
最終的な消費時間は増田八段が3時間57分、藤井棋王が3時間56分という、
4時間に迫る対局時間の中でわずか1分差という極限の集中力が両者を支えていました。
藤井棋王は相手の複雑な王手を正確に読み切り、最短ルートで勝利へのゴールを駆け抜けました。
5.最終決戦、鳥取・有隣荘への招待状
絶体絶命のカド番を見事にしのぎ切り、藤井棋王はシリーズ成績を2勝2敗のタイに戻しました。
窮地に追い込まれてなお輝きを増す絶対王者の勝負強さと、独創的な構想で王者をフルセットまで追い詰めた増田八段の健闘。
今シリーズは、まさに将棋史に残る名勝負となりました。
決着の舞台は、鳥取県鳥取市の「有隣荘」へと移ります。
追い込まれた極限状態でこそ真の強さを見せる藤井棋王が防衛を果たすのか、
それとも増田八段の独創性が三度王者を上回り、悲願の初タイトルを奪取するのか。
最終局3月29日が楽しみです。
