第67期王位戦七番勝負の第1局、先手番を落とすという波乱の幕開けとなった藤井聡太王位。

ファンや関係者の間には「ここから藤井王位がどう巻き返すのか?」という期待と緊張が走りました。

迎えた第2局、先手番で開幕2連勝を狙う伊藤匠二冠に対し、絶対にタイに戻したい藤井王位。

両者の火花散る「バチバチ」の攻防を分けたのは、精密な研究を上回る「決断」と「大局観」でした。

第67期王位戦第2局

1.前例を捨てた「5分の決断」— 緻密な研究のその先へ

序盤、戦型は「相がかり」に進みました。

局面は、以前伊藤二冠が指した第10期叡王戦(対 斎藤慎太郎八段戦)での対局例と同じ形を辿ります。

しかし、藤井王位はそこで足踏みをしませんでした。

前例では斎藤八段が△8六歩と指した局面で、藤井王位はわずか5分の考慮で△7五飛と手を変えました。

自ら未知の領域へ踏み込むこの一手こそが、本局の主導権を握る第一歩となりました。

山崎隆之九段は、プロの心理的攻防について次のように指摘しています。 

「自分だけ知らない仕掛けがあると相当に苦しくなる」

前例がある局面であっても、相手の知らない「変化」を自ら作り出すことは、対局相手に多大な心理的負担を強います。

藤井王位は、現場での「勇気ある決断」によって、伊藤二冠の構想を揺さぶったのです。

2.プロも驚く「気づきにくい馬寄り」 — 勝利を決定づけた2七馬

中盤の難所、伊藤二冠が▲8四桂と鋭く踏み込んできた局面。

これに対し、藤井王位が放った△2七馬は、プロの目からも「見えにくい」絶妙な一手でした。

実はこの馬寄りは、伊藤二冠が▲8四桂と打ったことによって生じた「一瞬の隙」を突いた、驚くべき一手だったのです。

盤面全体を把握し、相手の攻めを逆利用して加速させる。

この△2七馬こそ、藤井王位の卓越した大局観を象徴する一手でした。

3.スレスレの読み切り — 「一直線の寄せ」という恐怖

終盤戦、伊藤二冠は自陣に駒を投入して粘りを見せます。

ここで多くの棋士が検討していたのは、相手の攻めを防ぐ「△4二銀」や「△2一金」といった守りの手でした。

しかし、藤井王位の選択は、最短の勝利を目指す△8八歩でした。

この手自体は「詰めろ」ではありません。

しかし、次に△5八馬と引けば必至級の攻めになるという「2手スキ」の判断です。

藤井王位は、自身の守りを一切放棄してでも、自玉が「際どく耐えている」ことを100%確信していました。

立会人の福崎文吾九段は、この攻防をこう評しました。

「どんなスレスレでも読みきってしまえばいいですからね」

一見すると自玉が危険で、最短の寄せを狙うのはあまりに危険に見えます。

しかし、藤井王位の正確無比な読みは、伊藤二冠の▲3一飛成などの反撃をすべて無力化し、敵玉を一直線に寄せ切ったのです。