2026年6月4日、将棋界の初夏を彩る「第97期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負」が開幕しました。

本シリーズは、棋聖位7連覇という大記録を目指す絶対王者・藤井聡太棋聖に、タイトル戦初登場となる新鋭・服部慎一郎七段が挑む注目の一戦です。

独自の感性を持つ挑戦者が、いかにして藤井一強の牙城を崩すのか。

盤上に火花散る熱戦の火蓋が切って落とされました。

第97期棋聖戦第1局

1.序盤:服部七段の工夫と力戦調の出だし

振り駒の結果、藤井棋聖の先手番と決まり、対局が始まります。

序盤早々、挑戦者の服部七段が意欲的な工夫を見せました。

6手目に指した△9四歩、そして8手目の△6二銀。

これは定跡を外れた力戦調の将棋へと誘う一手で、データベースにもわずか5局しか前例がありません。

直近では第51期棋王戦五番勝負第5局(▲藤井棋王-△増田康宏八段戦)で現れた非常に珍しい形です。

10時30分頃の控室では、木村一基九段や鈴木大介九段らが継ぎ盤を囲み、検討に没頭。

挑戦者の揺さぶりに対し、藤井棋聖は終局後に「認識のない展開だった」と明かしつつも、17手目に▲2四歩と突いて積極的に歩交換を敢行します。

王者は未知の局面を恐れることなく、真っ向から戦う道を選びました。

2.中盤:波乱の展開と「2枚飛車」の罠

昼食休憩を終え、盤面は激しさを増していきます。

飛車角交換が行われ、藤井棋聖が馬を作って主導権を握ったかに見えましたが、服部七段も黙ってはいません。

15時30分過ぎ、服部七段が指した△3四飛打が控室を震撼させました。

持ち駒の飛車を自陣に投入し、盤上に2枚飛車を並べるという、プロの対局では極めて稀な勝負手です。

この手の狙いは極めて鋭いものでした。

もし藤井棋聖が▲3五歩と攻めを急げば、△同銀 ▲5六角 △3六銀 ▲3四角 △同飛という手順で「角得」を実現させ、後手が優位に立つという巧妙な罠が仕掛けられていたのです。

しかし、藤井棋聖はわずか4分の熟考で▲4七馬と引き、この罠を冷静に回避。

相手の奇策を真っ向から受け止め、着実にリードを維持しました。

3.終盤:勝負を決めた「急所のタタキ」

18時を過ぎ、対局はクライマックスを迎えます。

一時、藤井棋聖が「▲3九金と寄った手が少し甘かった」と悔やむ場面もありましたが、勝負どころでの集中力は流石でした。

反撃に転じた藤井棋聖が放った決定打、それが▲3三歩という「タタキ」の歩です。

この歩に対し、△3三同金と取っても△3三同飛と取っても、すかさず▲4五桂と跳ねる「両取り」が炸裂する仕組みになっています。

服部七段はたまらず△1二飛とかわしましたが、これで攻めの威力が半減。

最後は服部七段の猛追を、藤井棋聖が絶妙な守備の自陣角である▲2八角で完璧に押し返し、見事な勝利を収めました。

4.対局結果と両対局者の談話

18時58分、服部七段が投了を告げ、藤井棋聖が99手をもって先勝。

シリーズ成績を1勝0敗とし、防衛に向けて好スタートを切りました。

藤井聡太棋聖の談話

  • 類型の少ない将棋で、形勢判断や方針の立て方が非常に難しかったです。
  • 中盤の▲3九金で形が悪くなったところに積極的に指され、思い描いていた展開ではなくなってしまったと感じていました。
  • 最終盤の▲2八角はそれほど成算があったわけではありませんが、結果として攻めを押し返せました。
  • 4時間の将棋が久しぶりだったので、その感覚をある程度つかめたのは次局への収穫です。

服部慎一郎七段の談話

  • 序盤で▲2四歩と突っ張られるのは予想外で、作戦選択がまずかったかもしれません。
  • 中盤、指す手に困ってしまい△8五桂と跳ねたのが「暴発」でした。跳ねてはいけない手だと思ったのですが……。
  • 初めてのタイトル戦でしたが、和服もそれほど気になることなく、普段通り指すことができました。

4.次局への展望

圧倒的な対応力で初戦を制した藤井棋聖。

一方、敗れた服部七段も「2枚飛車」という独創的な構想で王者を脅かす場面を作り、その実力の高さを証明しました。

待望の第2局は、6月19日(金)に栃木県日光市の名門「日光金谷ホテル」で行われます。

藤井棋聖が連勝して一気に王手をかけるのか、それとも服部七段が立て直し、タイに戻すのか。

日光の地で繰り広げられる次なる知略の応酬から目が離せません。